当協会設立の目的・趣旨
IT(情報通信技術)は、単なる道具としての限定的な利用範囲から今や我々の社会経済活動に無くてはならない基盤へと
発展し、今後とも経済成長や国民の利便性向上などのために、一層の適用拡大が進むことは論を待たないでしょう。
しかしながら、ITシステム構築において、社会経済活動を停滞させる障害(Q)、開発プロジェクトの大幅なコスト超過(C)や納期遅れに起因する事業機会の喪失(D)といった昔からあるシステム開発トラブルが絶えないのは、過去に学んだはずの教訓が経験者の頭の中にとどまり、“暗黙知“のままで、新しい世代が担う企業組織に伝承されていないことが一因と考えられます。これは我が国にとって大きな損失であり、暗黙知のままの知的財産を少しでも見えるようにし次世代のために役立てたいと考えました。
2005年~2010年にかけて、情報処理振興機構(IPA)にて当時存在していたソフトウェアエンジニアリングセンタ(SEC)は部会(プロジェクト見える化部会)を設け、ITシステムの見える化に取り組み、最終的に4部構成のSEC-BOOKS含む多数の出版本・論文を世の中に送り出すという成果を得ました。特にSEC-BOOKS(ITプロジェクトの見える化)はSEC成果物の中ではベストセラーとなり、また第四回IPA賞の受賞根拠ともなったものの、成果の普及活動が十分とは言い難くIT企業における導入率は1割未満(2012年IPA産業実態調査)に留まっています。
また、プロジェクト見える化部会活動は2010年に終わり、その外のSEC活動も2012年度末に大方が終了となりました。従って、トヨタにおける見える化活動のように、組織として何十年も活動を継続することで国際競争力を高めるまでには至っていません。IT分野でトラブルが絶えない背景にはこれら要因があると考え、部会活動に参画したメンバの一部は、焦燥感を募らせてきました。
見える化活動とその成果普及の継続・強化により、IT開発トラブルを少しでも減らしたいという熱い想いを抱き、IT見える化を推進する仕組みとして、IT見える化協会を設立することとしました。この理念のもと、当協会ではITの円滑な供給(IT開発における目標QCD達成率の向上)とその強靭化(開発後のITシステム障害やその影響の低減)を支援するため、ITに関する技術課題を改善・解決する暗黙知を見える化しその成果の普及・伝承等の事業を行い、我が国の経済成長や国民の利便性や安心・安全の向上への貢献を目指すこととしました。
皆様の本活動へのご支援ならびにご参加をお待ちしております。
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賛同人(元政府、学術界関係者)からのメッセージ
最近はほとんどの業務にコンピュータが介在しているから、オペレーションや処理内容を逐一、コンピュータ上に記録することができる。このようなデータをビジブルに表示するのが「見える化」ということだと思うが、さらに過去のデータやベストプラクティスと比較して分析すると、業務の進み具合や先々の問題発生を予見して予防することができる。
「予見して予防する」ということは、業務の今まで把握されていなかった知られざる部分を把握し、改善を講じるということで、言い換えると「今までの業務のやり方は駄目だった」と指摘することでもある。
目的意識を持たずに「何となく効果がありそう」で見える化を行っても、現場に負担を強いるだけで成果が上がらないことが多い。目的を持ったうえで「その目的のためにどの作業工程の何を見える化し、その結果からどのような対策を打つか」までを考えてから行うことが望ましい。
今回「IT見える化協会」を設立された方々は、企業での実務経験やIPA/SECでの知見を積まれており、今後の活動を大いに期待している。
IPA・初代SEC所長
現HAL東京校長 鶴保 征城
賛同人(ユーザ企業)からのメッセージ
近年、ITは日常生活の利便性向上から企業の戦略的分野まで幅広く活用されて来ていて、コモデティ化と戦略的利用が同時に進行している。
一方、ITの高度化は止まることを知らず指数関数的に変化し、それが継続している。このような状況にはあるが、ITはまだ専門家の特別な領域と思われる傾向もあり、一般の技術分野とは一線を画しているように思われ、普段に理解されやすい技術レベルまで裾野を広げる努力が続いている。
IT分野に属する技術者でも一定のレベルに到達するには相応の経験を踏まなければ一人前のレベルには到達できない現状にある。
この現状を解決すべく「IT見える化協会」が設立された由で、幅広い社会のIT活用を支える上で、ITベンダ企業だけでなくIT利用(ユーザ)企業にも有意義な活動であり期待したい。
前 日本取引所グループ 専務執行役 CIO
現 日本郵便株式会社 専務執行役員 CIO
鈴木 義伯